大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和47年(ヨ)150号 決定

債権者 吉原一

〈ほか二名〉

右債権者三名代理人弁護士 木村和夫

同 宮代洋一

同 陶山圭之輔

同 三野研太郎

同 横山国男

同 伊藤幹郎

同 三浦守正

債務者 鈴木隆

〈ほか一名〉

主文

債務者らは別紙目録(一)記載の土地上に建築中の同目録(二)記載の建物につき、五階(高さ十一、六メートル)以上の建築工事を中止しこれを続行してはならない。

理由

一、日照、通風等の自然の恵みを享受することは、わが国の生活様式からして、健康で文化的な生活を営むための不可欠な生活利益であって、この利益は法的保護に十分値し、これを第三者から侵害された場合には、その侵害の態様、当該地域の環境、当事者双方の利害その他諸般の事情に照らして、その程度が社会通念上受忍すべき限度を超えていると認められるときは、加害者に対して妨害の排除あるいは妨害行為の差止を請求し得べきものと解される。

二、そこで、本件の疏明資料によると、(一)債務者鈴木隆は、債務者大塚建設株式会社に請負わせて地下一階地上六階、高さ一九・九〇メートル(四階までの高さは十一・六メートル)、建築面積一六二・四九平方メートルの鉄筋コンクリート造共同住宅を建設中であり、すでにコンクリート打工事はほぼ終了していること、(二)右建物は、四階以下は譲渡を目的とするいわゆる分譲マンションであって、二七三・七七平方メートルの敷地いっぱいに建てられ、北側に接している債権者吉原の居住土地の境界線から僅かに六〇センチメートルの間隔しかおいていないこと、(三)右建物の建築によって、冬至における債権者ら宅の日照時間は、(イ)債権者吉原方において、日出直後および日没直前に家屋の一部に日照がある程度で、ほんのわずかであり、(ロ)債権者林方において、日出から午前九時頃までと午後三時から日没までの各一時間合計二時間程度となり、(ハ)債権者杉山方においては、日出から午前一〇時頃までと午後二時頃から日没までの各二時間、合計四時間程度となり、いずれも日中の日照は阻害され、ことにクリーニング業を営む債権者林は洗濯物の天日乾燥がほとんど不可能となること、(四)本件現場付近一帯は、住居地域に指定され、二階建以上の高層建物はなく、はるかに離れた本牧町一丁目電車通り商店街に銀行、商店、医院等の鉄筋コンクリート造建物が存在するが、いずれも三階ないし四階建にとどまること、(五)債権者らは、いずれも一〇年ないし二〇年以前から居住し、日照、通風等の自然の恵みを受けて生活してきたものであり、一方債務者鈴木は昭和四五年一一月一〇日に敷地を買受け、分譲マンションである本件建物の建築を計画したものであること、などが一応認められ、このような事情からすると債務者らにおいて五階建以上の建物を構築することは、一応債権者らの受忍限度を超えるものと考えられる。もとより、この受忍限度は不動のものではなく、地域環境の変化や生活様式、日照、通風に対する見方等の変化によって動くものであるが、この変動にそって高層化の程度も段階的に進めるべきであろう。今日の建築技術は、将来の高層化を予定した設計も施行も容易に可能であり、地域開発の先鞭をつけようとする者は、こうした観点からの負担を負うべきである。

よって、主文のとおり決定する次第である。

(裁判官 北沢貞男)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例